Long & Winding Road

「Kヤイリはどうなっているんだ?」
そんな声さえ聞こえなくなって久しいけれど…
どっこい。老兵は死なず。(^_^;)

御主人様と暮らし始めた頃、御主人様はまだ20歳くらいだった。
御主人様は毎日オイラを弾いて吉田拓郎を歌いまくっていた。
ガシガシガシガシ…。
力任せに殴るように弾いて、力任せに叫ぶように歌っていた。

のど自慢やら、コンテストなんぞに連れて行って貰った。
いつも、予選はなんとか通るけど本選では入賞外という程度。
でも、夢があって楽しかった。
当時の御主人様は、歌は声がでかければ良いと思っていたみたいだ。
気持ちを込めると言うことは、思いっきりシャウトすることだと勘違いしていたみたいだ。
スナックのカラオケでもマイクのスイッチを切られる御主人様。
その声に負けないように、オイラもとにかくでかい音を出した。
太い弦を張って、二人で叫きまくっていた。
一日に何時間も何時間も御主人様はオイラを膝の上に乗せて歌いまくっていた。
ご飯もオイラを膝に乗せたまま食べてたなあ…。
あの頃が一番楽しかったのかもしれない。

やがて御主人様は壁にぶつかった。
歌い方が分からなくなったのだ。
それまで、通過していたコンテストの予選さえ通らなくなった。
その時の御主人様は、何のためらいもなく歌を捨てた。
「もっと楽しいことがあるはず」そう思っていたみたいだ。


そして奥様と結婚。息子さんも生まれた。
オイラは、部屋の隅どころか、ケースに閉じこめられたまま。
たまに宴会で興が乗った時に引っ張り出されて、御主人様の友達のカラオケ代わりに弾いて貰うだけだった。
ギターの一生なんてこんなものかもね…そう思いながらケースの中で眠り続けていた。


何年経ったろうか…
御主人様が再び「歌」と向かい合った。
プロのベース弾きの旧友と再会したのがきっかけだったのだが、
結局、「歌」しかなかったのかもしれない。

再び人前で歌う御主人様。
しかし、以前とは様子が全く違った。
周りの人たちと御主人様では実力が全く違ったのだ。
御主人様では、とてもかなわないレベルだ。
歌っている途中で降ろされたこともあった。
悔しかったろうなあ…。ショックだったろうなあ…。
でも今度は逃げなかった。
御主人様は、オイラを連れて町に出た。
公園、観光地、アーケード、地下道…とにかくどこへでも出かけて歌った。
「歌を、ちゃんと聞いて貰いたい」
それだけを目標に、そしてその日が来るのを信じて歌い続けた。

それでも何か違う。
一生懸命力を込めて歌うのだが、聞いている人達に何も伝わっていないのではないか?
どうしたらいいのか…いろんな試行錯誤をしていたみたいだ。

そんなある日、御主人様が一本の小柄なギターと一緒に帰ってきた。
アストリアスとかいう聞いたことのないメーカー。
名前は E.C. HERRINGBONE と言った。
小柄で、華奢な顔つき。
音も煌びやかではあるがパンチの無いふわふわした音。
けっ、軟弱野郎か。
お前なんかに御主人様の相手がつとまるのかよ。
そう思っていた。

しかし、御主人様が歌い始めてびっくり。
それはオイラが今まで聞いたことのない御主人様の声。
それはまるで別人だった。
オイラは御主人様にああいう風に歌わせる事は出来ない。
こんな歌い方が出来る人だったのか…
オイラは黙ってアストリアスを弾き続ける御主人様をじっと見下ろしていた。



それから…、
稲佐山でのストリートはアストリアスが受け持つようになった。
「けっ、軽いから持って行きやすいのさ」
そう思おうとした。

事実、御主人様も「大事な一発勝負の時はDY28さ」と言ってくれていた。
その後も、初めての蚕小屋、びんがさんとの最後のユメリア、東松山フォークジャンボリー、音蔵…
そんな場所はいつも御主人様と一緒だった。

しかし、だんだんと確実に御主人様がオイラにさわる時間は少なくなっていった。
ギターは、弾いて貰わなければ尚更身体が鈍っていくんだ…。

歌い方の変わった御主人様の評価は一転したようだ。
いろんなところから依頼が来るようになった。
でも、そんな御主人様にオイラが一緒についていく回数は確実に減って行った。

ギターの音色で歌い方が変わるという事に気づいた御主人様は
それからギターを換えまくった。
SヤイリのSY50、
アストリアスのDP2、Dカントリー、ソロプレミアム、
ヤマハのガットギター、コンパス、APX8…。
元々、叫ぶように歌うのが染みついている御主人様。
いくら静かな歌い方が客に受けても、シャウトしたい欲求は消すことが出来なかったみたいだ。
囁くギター、叫くギターと交互に買い換えていった。
しかし、それでもやっぱりオイラの出番は無かった。
いろんなギターを弾く御主人様を壁からぼんやり眺めているだけだった。

何年経ったかなあ…
オイラのギターとしての一生、今度は本当にもう先が見えたなあ…そんな時だった。
御主人様がオイラの事を気にし始めた。
なんの気まぐれか?
どうせ一時の気の迷いなら初めから放って置いてくれ。
どんなに御主人様が弾こうとしても、もうオイラの身体はまともな音は出せない。
一昔前なら…、ずっと弾いてくれてたなら…こんな事にはなってなかったろう。
恨み言の一つも言いたくなるってもんさ。

それでも何故だか御主人様は諦めない。
頑固な変わり者だからなあ…。
リハビリの日々が続いた。
そして、ピックやら弾き方やらあれこれと試行錯誤を繰り返した。
ある日、弦をダダリオのフォスファ、エクストラライトに換えた時だ。
御主人様が気持ち良く歌い始めた。
ああ、こんなに長い時間歌ってくれたのは何年ぶりだったろうか…

御主人様と出会ってから27年。
オイラも御主人様も互いに年を取っていたんだなあ…。
昔は軟弱だと決めつけていた細い弦が、いつの間にか2人に丁度良くなっていたって事か…。
オイラの声に合わせて、御主人様はまた少し歌い方が変わった。

その日からだ。
御主人様はあちこちの演奏にオイラを連れて行き始めた。
あのボルドーライブにもオイラがお供している。

サンヒルズ矢上団地のラストで歌った「落陽」は気持ちよかったなあ(^0^)

先日の丸山公園夏祭りでの演奏。
トラブルの中、ずるずると沈没するかと心配したところを、ステージあしらいで何とか乗り切った御主人様。
あんな事が出来るようになっていたんだ…。
そのステージを降りた後、オイラの汗を拭いながら、
奥様に「こいつだったからやれた」と言ってくれた御主人様。
嬉しかった。(T_T)

御主人様は他のギター達を整理し始めた。
ソロプレミアムもどこかへ消えた。
今、オイラは御主人様の椅子の横に同じように座っている。

気まぐれな御主人様の事。
これから先、どうなるかは分からない。
またまた、触ってもらえない日が来るのかもしれない。
でもいいや、そんなことはどうでも。
どっちが先に逝くかも分からないけれど、今は思い出を一つずつ積み重ねていこう。

今日も御主人様は言う
「くされ縁だから…」(^0^)

H.17.09.19
 
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