もう一人のKヤイリ


オイラはいつも、こうやって壁にぶら下がって御主人様を眺めている。
  

歳月と共に一緒にぶら下がっている面子もかなり変わった。
最近は少し落ち着いているけれど、入れ替わりの激しい時も有ったなあ…。
最後にやって来たのが、今、隣にいるYFだ。
本名はYF-00028BE とか言うらしい。
同じKヤイリ製で、オイラの弟分って事になるのかなあ…。
御主人様が初めてオーダーして作ったエレアコだ。

このあいだ、そのYFのやつが話しかけてきた。

先輩、僕、本当にここに来て良かったんでしょうか…」
「ん?」
「だって、あんまりご主人様に気に入ってもらってないみたいで…」
「どうしたんだ、いったい」
「僕ってやっぱりダメなギターなんでしょうか…」
「おいおい、なんなんだいきなり。お前、落ち込んでるのか?」
「…」
「なんか悩みがあるなら聞いてやるぜ、言ってみな。なんたってお前は、ご主人様がわざわざ自分用に作った初めてのギターなんだからな」
「はあ…」
「しっかりしろよ、ここにいる他のギター達からしたらお前は羨ましい存在なんだからな」

「でも…」
「ここんとこPA使ったライブと言えば必ずお前の出番じゃないか。人前で弾かれるのって気持ちいいだろ?」
「でも、最近全然お呼びがないし…。最後に弾いてもらったのは去年のクリスマスで…。その前は…」
「………」
「…そうなんです。去年は結局10回くらいしか弾いてもらってないんです。最近御主人様の相手するのって殆どDY兄さんかアストリアスさんじゃないですか」
「そりゃ、今、御主人様は弾き語りの録音に夢中になってるからな…。またライブが始まればすぐにお前の出番が回ってくるって」

「そうでしょうか…」
「ほんとだって、あの飽きっぽい御主人様がそんなに一つのことが続くわけがない」
「ホントですか?」
「大丈夫だって、奥様よりも長く御主人様と一緒にいる俺が言うんだから間違いないって。録音に飽きたらまたライブが始って、その時はお前の天下さ」

「でも…」
「でも、なんだ?」
「先輩も知ってるんでしょう?。僕、僕…合板なんです」
「合板?それがどうしたってんだい?」
「どうって…、合板だから…」
「だから?」
「僕、家(Kヤイリ工場)を出る前に他のギターが悪口言ってるのを聞いちゃったんです。あいつ合板だぜって…。安物だって…。みんな僕のこと馬鹿にしてました。他のオーダーギターはみんな…、みんな単板だったのに…」(T_T)
「おいおい、なんだお前、そんな事で落ち込んでたのか?」
「だって、合板って、ダメなギターなんでしょう?」
「そんなことは無いぞ」
「先輩は単板だから僕の気持ちなんて分からないんです」
「そりゃ確かに俺は単板だけどよ…。アストリアスの奴も合板だぜ」
「えっ、し、知らなかったです…。綺麗な声だったからてっきり単板だと…」
「良い事を教えてやろう。今まで御主人様が買ったギターの殆どは合板だ」
「合板を差別しないんですか?」
「というより御主人様は合板のギターが好きなんだ」
「ええ?なぜ?」
「なぜって言われてもなあ…変わり者だからじゃないか?」
「か、変わり者…」
「数あるオイラの欠点の一つが単板であることだそうだ。よく貶された」(^_^;)
「御主人様って…、馬鹿なんですか?」
「はは…、まあ利口じゃないけどよ。単板と合板とどちらが優れているかって事だろうな」
「合板の方が強いんだ。俺ら単板は弱いのさ」
「僕って強いんですか?」
「ああ、俺はここから、御主人様がお前をオーダーするのをずっと見てたから良く知ってる。わざわざ合板を指定したんだ。
ヤイリの若社長とお前の事で打ち合わせする御主人様は本当に楽しそうだったぞ」
「ホントですか?」
「御主人様はライブ用の最強ギターを作りたかったんだ。そのためには単板のギターなんて選択外だったのさ。御主人様はライブのことを「出入り」と呼んだりするけれど実際言えてるよな、何が起きるか分からない場所だろ?」
「はあ…」
「エアコンや陽射し。ステージの上でも蹴られたり倒されたり…。いろんな事がある。お前はまだ知らないだろうが長旅の時はけっこうくたびれるぞ〜っ(>_<)。 特に飛行機な。身体がきしむんだよ。今の単板のギターどもの華奢な身体じゃ、そんなライブ生活は潜り抜けられないのさ。御主人様が欲しかったのは血統書付きの銘器じゃなくて、実戦向きの道具だったんだ。そのコンセプトで考え抜いてオーダーしたのがお前なんだ。胸を張れよ」
「でもそれって、荒っぽく使ってもいいギターって事でしょう? やっぱり僕って全然大事にされてないってことじゃないですか」
「全く大馬鹿野郎だなあおまえは…。そんなどうでもいいギターならわざわざオーダーするもんかよ」
「でも、僕より既製品の普通のYFの方が装飾が綺麗なんですよ。僕ってポジションマークも地味だし、ピックガードもただの黒だし…。僕ってやっぱり大事にされていないんじゃ…」
「あのなあ、お前の見てくれは全部俺が基本なの。俺が。文句ある?。御主人様は派手なのが嫌いなんだよ。だからわざわざ地味な装飾を依頼したんだ。渋くて良いじゃねえか。俺にケチ付ける気?」
「い、いえ…」
「アストリアスの奴なんか自慢のヘッドのインレイを、派手だからって理由で黒いシール貼って隠されてたこともあったんだぜ。可愛そうに」
「そ、そうだったんですか…(やっぱり御主人様って馬鹿なのか?)」

「まあ、気を落とすなって。今、ちょっと弾いてもらえないから、考えなくていい事を考えてしまうだけさ。俺なんか何年も放っておかれたぜ」
「…」
「いざ出入りって事になればお前の出番さ。それまで家の中で俺やアストリアスに花を持たせてくれよ。なっ」

「はあ…」


あ〜あ、こんな悩み相談受けるようになるとはオイラも歳食ったって事か。
若い奴らは悩みも多くて良いなあ。

まあ、完全には納得していないみたいだけど、そのうちあいつにも分かるだろう。
ちなみに御主人様がこれまで購入したギターで単板のギターはオイラだけ。
しかもオイラが単板だってことを知ったのは購入して20年以上経ってからだ。
そもそも、御主人様はギターに単板と合板があることすら知らなかったんだよね。
もちろん知ってからは合板好き。
道具としてどちらが優れているのか…。それだけらしい。
御主人様に言わせると「単板って言っても所詮は接着剤で繋いでいるじゃないか、量が多いか少ないかの差だ」ってさ。(^_^;)
馬鹿だな。やっぱり。(^o^)

まあ、オイラも合板だったら、もっといろんな所に連れて行ってもらえるんだろうけどな。
歳も取っちまった事だし無理しない老後を送らないとな。
これからは若い奴らの時代なんだろう。

今は、お宅街道まっしぐらの御主人様のお供で弾いてもらうのを楽しんでいよう。
俺たちギターは弾いてもらってなんぼ。
YFの話じゃないけれど、壁の花じゃあなんにもなりゃしないからな。




H.23.03.02
 
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